第 6 章 ― ただ生きるのではなく、よく生きる
6-1
悩みのない人生は、ない
ここから、最後の章に入る。
最初に取り上げたいのは、「悩み」である。
悩みは、誰の毎日にも、必ず立ち上がってくる。そして、悩みとの付き合い方が、ここまで書いてきた思想が、本当に役に立つかどうかの試金石になる。
だから、第6章は、悩みから始めたい。
まず、はっきり書いておきたいこと ― 悩みのない人生は、ない
最初に、ひとつ、はっきり書いておきたいことがある。
悩みのない人生は、ない。
「悩みのない人生」を理想にする人は、多い。だが、それは幻想である。
どんな人にも、毎日、何かしらの悩みは立ち上がる。仕事の悩み、人間関係の悩み、家族の悩み、健康の悩み、お金の悩み、将来の悩み、そして、自分自身についての悩み。
完全に悩みがなくなることは、ない。
これは、誰の人生にとっても、変わらない事実である。
ひとつの悩みを越えても、新しい悩みがやってくる
そして、もうひとつ、書いておきたい事実がある。
ひとつの悩みを越えても、新しい悩みがやってくる。
学生のころには、学生のころの悩みがあった。社会人になれば、社会人としての悩みが立ち上がる。結婚すれば、結婚生活の悩みが生まれる。子どもができれば、子育ての悩みが現れる。
ひとつの悩みを越えても、人生はまた、新しい悩みを差し出してくる。
これは、人生というものの、自然な構造である。
だから、「悩みを全部なくす」という幻想は、ここで手放したほうがいい。
ブッダは、悩みをなくすために、欲をなくせと言った
ここで、ひとつ、古くからある考え方に触れておきたい。
ブッダは、悩みをなくすために、欲をなくせ、と説いた。
宗教には、似たような構造が、多く見られる。
欲が、悩みを呼んでいる、という見方。
だから、欲を手放せば、悩みも消えていく、という立場。
これは、ひとつの深い叡智ではある。
WellGrowは、別の立場をとる
だが、WellGrowは、ここで、少し別の立場をとる。
WellGrowは、悩みをなくすことを、目指さない。
悩みは、成長の過程で、自然に出てくるものである。
そして、それを乗り越えていくことに、人生の素晴らしさがある。
ただし、ブッダの言っていることも、一部は理解できる。
無駄な欲は、なくした方がいい。
だが、自分の価値に根付いた欲まで、なくす必要はない。
自分の価値に根付いた欲に関わる悩みは、向き合い、乗り越えていくことに意味がある。
その営みの中にこそ、人生の素晴らしさがある。
だが、ここからが、本当に伝えたいメッセージ
ここまでは、ある種、事実を書いてきた。
「悩みのない人生は、ない」
「ひとつの悩みを越えても、新しい悩みがやってくる」
これらだけを読むと、悲観的に聞こえるかもしれない。
だが、ここからが、本当に伝えたいメッセージである。
目の前の悩みは、ひとつずつ、扱っていける
悩みが永遠に「ない」状態は、存在しない。
だが、いま自分の前にある悩みは、ひとつずつ、自分の手で扱っていける。
「悩みは、すべて消える」とは言わない。
「悩みのない人生が手に入る」とも言わない。
そうではなく、目の前の悩みに、ひとつずつ、丁寧に向き合っていける。
これが、WellGrowが取りたい立場である。
なぜ、扱っていけると言えるのか
なぜ、ここまで言えるのか。
悩みは、自分の内面の現象だからである。
第3章で見たように、悩みは、意識の向け先、予測、記憶、価値基準が組み合わさって立ち上がっている。
外の世界の出来事そのものではなく、自分の内面の処理から、悩みは生まれている。
だから、自分の内面の使い方を変えれば、悩みは必ず動く。
これは、第3章から第5章で扱ってきた、すべての技術が支えていることである。
内面の現象だからこそ、自分で扱える
外の出来事は、自分でコントロールできないことが多い。
他人は変えられない。過去は変えられない。世界の構造も変えられない。
だが、自分の内面 ― 意識の向け先、ことば、メンタルモデル、感情の扱い方 ― これらは、自分で扱える。
内面の現象だからこそ、すべての悩みは、自分の手の中にある。
だから、悩みは恐れるものではない
ここまで来ると、悩みとの関係が、少しずつ変わってくる。
悩みが立ち上がったとき、「またか」と落ち込む必要はない。
悩みは、人生の自然な現象である。
そして、ひとつずつ、自分の手で扱っていける。
「悩み = 恐れるもの」「悩み = 自分を苦しめるだけのもの」という前提は、ここで手放したい。
悩みに取り組むこと自体が、成長になる
ここから、もうひとつ大事な視点を書いておきたい。
悩みは、自分が向き合うべき何かが、目の前に立ち上がってきた、ということである。
その悩みに、ことばで取り組む(4-3)。
メンタルモデルから問い直す(4-8)。
感情を観察する(4-11)。
こうして悩みに取り組んでいくこと自体が、3-4で見た「成長」そのものである。
認知の範囲が広がり、扱える領域が広がり、自分が深まっていく。
悩みを越えていく、その過程こそが、成長である。
そして、悩みに取り組むこと自体が、人生の素晴らしさでもある
さらに、もう一歩、踏み込んで書いておきたい。
悩みのない平坦な人生は、もしあったとしても、深みのない人生になる。
悩み、向き合い、扱い、乗り越える ― この営みの中にこそ、人生の深さがある。
悩みがあるから、人は、深く、豊かに、生きていける。
WellGrowが、毎日の対話で手伝いたいのは、この実践
WellGrowが、毎日の対話で手伝いたいのは、まさにこの実践である。
立ち上がってきた悩みを、ことばにする。
悩みの奥にある、自分の意識の使い方を見直す。
必要なら、ことばを変え、メンタルモデルを点検し、感情を観察する。
これを毎日繰り返していくことで、悩みに、ひとつずつ取り組んでいける。
そして、悩みに取り組むその時間そのものが、自分を深め、人生を豊かにしていく。
この章で、ここから見ていきたいこと
ここから、第6章では、悩みとの付き合い方を支える、いくつかの大事な視点を、ひとつずつ見ていきたい。
自分で意味を見出す(6-2)。問いのある豊かな人生(6-3)。小さな選択の積み重ねが、人生を作る(6-4)。いまここに、生きる(6-5)。主体的に意思をもって、創造的に生きる(6-6)。そして、WellGrowへ(6-7)。
これらすべては、目の前の悩みに、ひとつずつ取り組んでいくための、視点と道具立てである。
ひとつずつ、見ていきたい。