第 5 章 ― 主体的に意思をもって、創造的に生きる
5-3
意思を、リアリティー高くイメージする
前の節で、自分の意思を認識する技術を見てきた。
意思を認識できたら、次の段階に進む。
認識した意思を、リアリティー高くもって、頭の中にイメージしていく。
「意思を持つ」と「意思をイメージする」のあいだには、実は、大きな飛躍がある。
そして、この飛躍を超えられるかどうかで、意思が現実に持ち出されるかどうかが、決まってくる。
ここから、その話に入っていきたい。
なぜ、イメージが必要なのか
意思を持つだけでは、なぜ足りないのか。
その理由は、第3章で見た「予測する脳」(3-3)の話に戻ってくる。
人間の脳は、予測マシンである。未来を予測しながら、その予測と現実のあいだのズレを最小化するように動いている。
そして、ここに、決定的に重要な事実がある。
リアリティーの高い予測ほど、脳はそれを実現しようと、強く動く。
リアリティーが高い予測をすると、現実化していく。
では、リアリティーが高いとは、どういうことか。
ひとつは、臨場感があること。もうひとつは、現実と地続きであること。
このふたつが揃ったとき、予測のリアリティーは高くなる。
ぼんやりした願望には、脳は動かない。
「いつか成功したい」「もっと幸せになりたい」「自由に生きたい」 ― これらの抽象的な願望は、脳の中で具体的な像を結ばないため、脳は実現に向けて動き始めない。
逆に、リアリティー高く描けた未来には、脳が動き始める。
五感が動くくらいのリアリティーで描けた未来は、脳にとって、すでに半分は現実になっているからである。
脳は、その「半分の現実」と、いまの現実とのズレを埋めようとして、行動のエネルギーを生み出し始める。
つまり、意思を持つだけでは足りない。
その意思が実現された姿を、五感が動くくらい、リアリティー高く描けること。
これが、意思を形にしていく第一歩である。
イメージとは何か ― 五感が動くレベルまで、鮮明に想像すること
では、イメージするとは、具体的にどういうことだろうか。
イメージとは、頭の中に、情報を構築していくことである。
そして、ただぼんやり思い描くことではない。五感が動くレベルまで、鮮明に想像することである。
視覚 ― 実際に目で見ているかのように、景色が立ち上がってくる。嗅覚 ― その匂いを、実際に感じるくらいに描く。聴覚 ― その音が、実際に聞こえていると感じるくらいに描く。身体 ― その場に、実際に存在していると感じるくらいに描く。
ここまで描けて、はじめて、それは「イメージできた」と言える。
そして、ことばを使って考えていくことも、イメージの一部である。ことばを通じて、頭の中に、情報を構築していく。これも、立派なイメージの営みである。
ワークをしてみる ― 80階建てビルの屋上
ことばで、ひとつ、イメージを体験してみてほしい。
あなたは、いま、80階建てのビルの屋上にいる。
本当は入れない場所だが、興味本位で、入れてしまった。
見ると、柵がそれほど高くない。乗り越えられそうである。そして、興味本位で、乗り越えてしまう。ビルの縁に、立つ。
80階の風は、強い。柵を持っていないと、飛ばされそうになる。
そんな恐怖の中で、せっかくだから下を見ようと思う。震えながら、ビルの縁から、下を覗き込む。
風が、耳元で鳴っている。心臓の音が、速くなっていく。足が、すくむ。
どうだろうか。
いま、あなたの頭の中で、音や、感情や、身体の感覚が、立ち上がってきたはずである。
体験したことがなくても、人は想像できる
ここで、ひとつ、大事なことに気づいてほしい。
おそらく、あなたは、実際にこんな体験をしたことは、ない。
それでも、頭の中で、その場面を作り上げることができた。風の音も、足のすくむ感覚も、確かに、立ち上がってきた。
なぜ、できるのか。
それは、いままでの経験や、頭の中にある情報を、つなげて、構築しているからである。
高いところに立ったときの感覚。強い風に吹かれたときの記憶。恐怖を感じたときの、身体の反応。
これらの断片を、脳が組み合わせて、体験したことのない場面を、作り上げている。
人間は、体験したことがないことでも、記憶をもとに、想像することができる。
こうした営みを、WellGrowは「イメージ」と呼んでいる。
そして、鮮明にイメージできた瞬間、脳の中では、すでに小さな現実が立ち上がっている。その小さな現実を、脳が「実現すべきもの」として扱い始める。そこから、行動が、自然に立ち上がり始める。
イメージと予測は、分けて考える
ここで、ひとつ、大事な視点を共有しておきたい。
意思を持って、リアリティーの高いイメージを持つこと ― これが、出発点になる。
やるべきことは、自分の意思が最大限発揮される方向に、イメージを創っていくことである。
ここで、「イメージ」と「予測」は、分けて考えたほうがいい。
第3章の「予測する脳」で見たように、人は、予測した方に動く。
だとすれば、行動を変えるために必要なのは、予測を変えることである。
そして、その予測を変えるために、イメージの力を使う。
イメージしたことで、予測が変わる。予測が変わるから、行動が変わる。
この順番が、大事である。
ここに、ひとつ、見落とされがちなことがある。
イメージは、地続きじゃなくていい。
いまの現実から、まだ遠く離れたイメージであっても、それを描き続けていくうちに、予測の方に反映されていく。
イメージをすると、その方向に関する情報が、自然と集まり始める。集まった情報が、予測を少しずつ作り変えていく。そうして、その方向の予測が、ゆっくりとできあがってくる。
つまり、予測は、こちらが頑張って作るものではない。リアリティーの高いイメージを持ち続けた結果として、勝手に作られていくものである。
だから、まずやることは、シンプルである。
リアリティーの高いイメージを、自分の意思の方向に、創っていく。
そのイメージが固まっていくと、やがて、それは予測に変わっていく。そして、予測が変わったとき、行動は、自然に変わり始める。
イメージのコツ
リアリティー高くイメージするための、いくつかのコツを、共有しておきたい。
1つめは、抽象的なことばで描かないこと。
「成功した自分」ではなく、「ある朝、特定の場面にいる自分」を描く。「幸せな人生」ではなく、「あの人と、特定の場所で、特定のことをしている瞬間」を描く。
抽象的なことばは、脳の中で像を結ばない。具体的な場面だけが、五感を動かせる。
2つめは、五感が動くように描くこと。
視覚だけでなく、聴覚、触覚、温度、そして感情まで、すべてが動くように描く。
ひとつの感覚だけだと、像は薄い。複数の感覚が重なったとき、像は立体になる。
3つめは、細部を入れること。
朝の光の射し込み方、相手の表情の微妙な動き、自分の鼓動の感覚。
全体像ではなく、細部こそが、リアリティーを作る。細部が描けるほど、脳は、そのイメージを現実に近いものとして扱う。
4つめは、一回で完成させようとしないこと。
最初から完璧なイメージは、描けない。毎日、少しずつ、解像度を上げていく。
今日描いたイメージは、明日もう一度描き直してみる。その繰り返しの中で、イメージは、本物のリアリティーを持ち始める。
イメージは、技術として練習できる
ここで、大事なことを書いておきたい。
リアリティー高くイメージできるかどうかは、生まれつきの才能ではない。
これも、技術として練習できる。
最初は、誰でも、ぼんやりとしか描けない。
「未来の自分の姿を描いてみて」と言われても、最初は、靄がかかったような像しか出てこない。それで、当たり前である。
続けるうちに、少しずつ、解像度が上がっていく。
昨日より、今日のほうが、像が鮮明になっている。今日より、明日のほうが、もっと細部まで描けるようになっている。
そして、それを毎日続けていると、やがて、五感が動くくらいのリアリティーで描けるようになる。
頭の中で未来を描いただけで、心拍数が少し上がる。胸が温かくなる。手のひらに、湿り気が出てくる。
そこまでくると、脳は、もうそのイメージを、現実の一部として扱い始めている。
これは、特別な人だけにできることではない。毎日少しずつ練習すれば、誰でも、ここまでたどり着ける。
リアリティーのあるイメージを持てた人は、強い
最後に、リアリティーのあるイメージができる力を持つことの、大きな意味を書いておきたい。
リアリティーのあるイメージを持てた人は、強い。
行動に、迷いがなくなる。向かう未来が、はっきり見えているから、何を選び、何を選ばないかが、自然に決まる。
偶然の機会を、見逃さなくなる。日常の中で起きる出来事の中に、自分の未来に繋がる小さなサインを、見つけられるようになる。意識のスポットライト(3-5)が、未来に向けて、絶えず働いているからである。
周りの人を、巻き込めるようになる。自分が見ている未来を、ことばで語れるようになる。その語りに、人は引き寄せられる。ひとりで描いていた未来が、複数の人に共有された未来になっていく。
これらは、特別な才能の話ではない。
頭の中に、リアリティーのある未来を持っているかどうか。ただ、それだけの違いである。
すべては、リアリティー高く描けた未来から、始まる
ここで、5-3のもっとも大事なメッセージを書きたい。
すべては、リアリティー高く描けた未来から、始まる。
自分の本当の意思を認識した(5-2)。それを、リアリティー高くイメージできた(5-3)。
ここまで来たら、もう、現実が動き始めている。
頭の中で描いた未来が、まだ目の前にはないとしても、それは、すでに半分は現実になっている。
残りの半分を、これから、毎日の行動で、現実に持ち出していく。
その話は、次の節で扱いたい。
創造的に生きる ― 描いたイメージを、現実に持ち出していく、最後のプロセスへ。