
心配性を直したい ―性格ではなく「心配の習慣」として付き合う方法
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WellGrow編集部
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家を出たあとで、鍵を閉めたかどうか不安になって引き返す。送信したメールを何度も読み返して、失礼な表現がなかったか確かめる。まだ起きてもいないトラブルを想像して、夜、布団の中で目が冴えてしまう。思い当たることが多い人ほど、「自分は心配性だから」と、半分あきらめのような気持ちでこの言葉を使っているかもしれません。
しかし、心理学の研究の世界では、心配性は生まれつき決まった固定的な「性格」としてではなく、測定でき、変えることができる「心配の習慣(考え方のクセ)」として扱われています。この記事では、心配性が「程度の問題」であることを示した研究、心配がやめられなくなる心理的な仕組み、公的データから見た「心配する人」の実像、そして考え方のクセに気づくための具体的な手順までを、順番に整理します。
心配性は「性格」ではなく「心配の習慣」である
「心配性」という言葉には、生まれつきのもの・自分という人間の一部・直せないもの、という響きがあります。性格だと考えている限り、選択肢は「受け入れる」か「自分を責める」かの二つしかありません。しかし研究の世界では、心配しやすさはそのような0か1かの分類ではなく、誰もが多かれ少なかれ持っている傾向の「程度の問題」として捉えられてきました。
心配は「測れる」― ペンステート心配尺度(PSWQ)
1990年、米国ペンシルベニア州立大学のマイヤーらの研究チームは、人がどのくらい心配しやすいかを測るための質問紙「ペンステート心配尺度(PSWQ: Penn State Worry Questionnaire)」を開発しました。「いろいろなことが心配になる」「一度心配し始めると、途中でやめられない」といった趣旨の文章に対して、自分がどの程度当てはまるかを段階的に答えていくと、心配しやすさの度合いが点数として表される仕組みです。この尺度は現在まで、心配の研究で世界的に使われ続けています。
ここで注目したいのは、点数そのものではありません。心配性が尺度で測定されているという事実は、心配しやすさが「心配性である/ない」の二択ではなく、全員がどこかに位置する連続的なグラデーションだということを意味します。そして程度の問題であるなら、その程度は状況や取り組みによって動きうるものです。「心配性という特別な性格の持ち主」と「そうでない普通の人」がいるのではなく、心配の度合いが今は高めの位置にある、というだけなのです。
「性格」を「習慣」と捉え直すと、打つ手が生まれる
心配性を「性格」ではなく「心配の習慣」と捉え直すことには、実用的な意味があります。習慣とは、ある場面で特定の考え方・反応が繰り返され、自動化されたものです。習慣であれば、まずそのパターンに気づくことができ、気づければ別の反応を少しずつ練習することもできます。生まれつきの欠陥を抱えているのではなく、長年繰り返してきた考え方のクセがあるだけだと分かれば、自分を責める理由もなくなります。
なぜ心配はやめられないのか ― 「役に立っている」ように感じる仕組み
「心配の習慣」というと、「やめればいいだけでは」と思うかもしれません。しかし心配の習慣には、やめにくくなる巧妙な仕組みが組み込まれています。心配研究の土台を築いた心理学者トーマス・ボーコヴェックらは、1983年の論文で、心配を「否定的な感情を伴い、比較的コントロールしにくい、思考とイメージの連鎖」と定義しました。心配とは、頭の中でひとりでに連鎖していく思考の流れなのです。
ボーコヴェックらの研究で示されてきた重要な点は、心配が主に「言葉で考える」活動だということです。最悪の場面をありありと映像として思い浮かべる代わりに、言葉でぐるぐると考え続けることで、強い恐怖の感情やからだの反応に直面することを一時的に避けられます。つまり心配は、問題に取り組んでいるようでいて、実際には怖いものから目をそらす「回避」として機能しているのです。回避には短期的な安心という報酬があるため、心配の習慣は自然と繰り返されます。
さらにもうひとつ、心配の習慣を強力に維持する仕組みがあります。心配したことの多くは、実際には起こりません。心配事の大半が現実にはならないことを扱った研究は別の記事で詳しく紹介していますが、ここで重要なのは、恐れた結果が「起こらなかった」ときに心が何を学ぶかです。本当は最初から起こる可能性が低かっただけなのに、心は「心配したおかげで大丈夫だった」という誤った因果関係を学習します。こうして心配は「役に立つもの」として記憶され、次の場面でも自動的に発動するようになるのです。
データで見る ― 悩みを抱えることは、めずらしくない
「心配性を直したい」と感じている人は、自分だけが人一倍弱いのだと思い込みがちです。そこで、公的データで「悩みや心配を抱えている人」がどれくらいいるのかを確認しておきましょう。
12歳以上の男性41.2%・女性50.6%に「悩みやストレスがある」
厚生労働省の「令和4年 国民生活基礎調査」によると、12歳以上で「悩みやストレスがある」と答えた人は、男性で41.2%、女性で50.6%にのぼります。女性では約2人に1人、男性でも5人に2人が、日常的に何らかの悩みやストレスを抱えているということです。世界規模の疾病負荷を調べる国際的な研究でも、不安は世界で最も多くの人が経験する精神的な悩みのひとつと報告されています。心配や悩みを抱えることは、少数派の弱さではなく、多数派に近い、ごくありふれた状態なのです。
ただし、多くの人は深刻な苦痛までは抱えていない
同じ調査では、過去1か月のこころの状態を点数化した指標(K6)も調べられており、最も苦痛が少ない「0〜4点」の人が70.9%と最多でした。つまり、「悩みやストレスがある」ことと「深刻な心理的苦痛を抱えている」ことは別の話です。心配性であること自体を、ただちに病的なものと捉える必要はありません。多くの人が悩みを抱えながら、日常を送っています。だからこそ、心配性は特別な治療の対象である前に、日常の中で付き合い方を変えていける「習慣」の問題として扱えるのです。
「心配の習慣」に気づく3つの手順 ― 厚労省の公開マニュアルにも使われる考え方
では、心配の習慣にはどう働きかければよいのでしょうか。参考になるのが、厚生労働省の研究事業として作成され、無料で公開されている「うつ病の認知療法・認知行動療法 治療者用マニュアル」です。これはうつ病の治療者向けに書かれた専門資料であり、ここで紹介するのは治療法そのものではありません。ただ、その中心にある「考え方のクセに気づいて、書き出し、検証する」という基本の考え方は、公的なマニュアルでも採用されている確かな土台であり、セルフケアの範囲でも十分に応用できます。3つの手順に分けて紹介します。
手順1. 心配が浮かんだ場面を「出来事・考え・気分」に分けて書き出す
マニュアルでは、「出来事」「そのとき頭に浮かんだ考え(自動思考)」「気分」の3つに分けて書き出す方法が「3つのコラム」として紹介されています。たとえば「上司からの返信が短かった(出来事)→ 怒らせたかもしれない(考え)→ 不安 90%(気分)」のように書きます。頭の中では出来事と考えと気分がひとかたまりに感じられますが、紙の上で3つに分けるだけで、「事実」と「自分の解釈」が別物であることが見えてきます。心配の習慣に気づく第一歩は、この切り分けです。
手順2. 書き出した「考え」を検証する
次に、書き出した考えを検証します。「その考えを支える事実は何か」「その考えに合わない事実はないか」「同じ状況の友人がいたら、何と声をかけるか」といった問いを、自分に投げかけてみてください。マニュアルでは、治療者と患者が一緒に「科学者」のように考えを検証していく姿勢(協同的経験主義)が原則とされています。セルフケアで行う場合も、自分の考えを裁くのではなく、仮説として扱い、事実と照らし合わせるというスタンスが鍵になります。心配は「確定した未来」の顔をしてやってきますが、検証してみると、数ある可能性のひとつに過ぎないことがほとんどです。
手順3. くり返し現れるパターン(思い込み)に気づく
書き出しをしばらく続けると、自分の心配に同じパターンがあることに気づきます。マニュアルでは、考え方の奥にあるこうした信念を「スキーマ」と呼び、「人から頼まれたら断ってはいけない」のような条件付きの思い込みが例として挙げられています。心配性の人であれば、「常に最悪に備えていなければならない」「少しのミスも許されない」といったパターンが見つかるかもしれません。すぐに変えられなくても、「また、いつものクセが出ているな」と気づけること自体が、習慣の自動運転を止める大きな一歩になります。
なお、書き出しても頭の中のぐるぐるが止まらず、考えすぎのループに入ってしまうタイプの人は、考えすぎをやめられないときの対処法を扱った記事もあわせて参考にしてください。
心配の根っこには、「大切にしたいもの」がある
最後に、視点をひとつ反転させてみたいと思います。あなたはなぜ、仕事のミスをあれほど心配するのでしょうか。なぜ、家族の帰りが遅いと不安になるのでしょうか。どうでもいいものを、人は心配しません。仕事の失敗が心配なのは、仕事で果たしたい役割があるからです。家族のことが心配なのは、家族を大切に思っているからです。つまり心配とは、「大切にしたいもの」の存在を教えてくれる、願いの裏返しでもあるのです。
だとすれば、目指すべきは心配をゼロにすることではありません。心配の奥にある「本当はこうありたい」「これを守りたい」という願いを、心配というかたちのままにせず、自分の言葉にすることです。願いが言葉になると、漠然とした不安は「そのために何をするか」という具体的な問いに変わります。WellGrow の思想ページでは、この「日々の問いとの対話を通して、意識を本当に大事なことに向ける」という考え方を詳しく紹介しています。
注意:心配で生活に支障が出る状態が2週間以上続く場合は専門機関へ
この記事で紹介した内容は、あくまで一般的なセルフケアの範囲のものです。以下のような状態が2週間以上続いている場合は、ひとりで抱え込まず、心療内科・精神科や、かかりつけ医、地域の相談窓口に相談してください。
- 心配や不安で眠れない日が続いている
- 心配のせいで、仕事・家事・外出など日常の行動に支障が出ている
- からだの緊張、動悸、めまいなどの症状が続いてつらい
- 気分の落ち込みが続き、以前は楽しめていたことに興味が持てない
つらさが強いときは、早めに専門家を頼ることが最善の対処になります。相談することは弱さではなく、自分を大切にする行動です。
よくある質問
Q. 心配性は生まれつきの性格で、直らないのではありませんか?
心配しやすさに生まれ持った傾向が影響すること自体は否定できません。しかし研究の世界では、心配しやすさは尺度で測定できる「程度の問題」として扱われており、考え方の習慣に働きかけることでその程度は変わりうると考えられています。「性格だから無理」と全体をあきらめるのではなく、変えられる部分(考え方のクセ)に目を向けるほうが建設的です。
Q. 心配するのをやめたら、油断して失敗しそうで怖いです
その感覚こそが、心配の習慣を維持している中心的な仕組みです。実際に失敗を防ぐのは、頭の中でぐるぐる考えることではなく、確認リストを作る・早めに相談するといった具体的な行動です。「心配(頭の中の反すう)」と「準備(具体的な行動)」を分けて、準備が済んだら心配の続きは手放す、と決めてみてください。
Q. 書き出しても、また同じ心配が浮かんできます
それは自然なことです。書き出しの目的は心配を完全に消すことではなく、心配と自分のあいだに距離を作ることにあります。同じ心配が繰り返し出てくるなら、それは自分の思い込みのパターンに気づくための材料になります。ただし、心配で生活に支障が出る状態が2週間以上続く場合は、セルフケアにこだわらず専門機関に相談してください。
まとめ
「心配性を直したい」という思いの裏には、もっと軽やかに生きたいという願いがあるはずです。まずは今日、心配がひとつ浮かんだら、「出来事・考え・気分」の3つに分けて書き出すことから始めてみてください。
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