
「心配事の9割は起こらない」は本当か ―91.4%は実現しないという実測データと、残り8.6%への備え方
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WellGrow編集部
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「心配事の9割は起こらない」。本のタイトルや先輩の助言として、一度は聞いたことがある言葉ではないでしょうか。励まされる一方で、「本当だろうか。自分の心配は、その起こる1割かもしれない」と思ってしまう。心配性の人ほど、この格言を素直に信じられないものです。
実はこの格言には、実際に心配を記録して、当たったかどうかを数えた研究という裏づけがあります。結果は91.4%が実現せず、格言の「9割」とほぼ一致しました。この記事では、その研究が誰を対象に、どんな方法で心配を数えたのかを具体的に紹介したうえで、約2000年前に同じことを見抜いていたセネカの言葉、そもそも心配とは何かという心理学の定義、そして「実際に起こる残り8.6%」にどう備えるかまでを順番に整理します。
結論:心配の91.4%は実現しなかった ― 格言を実測した研究がある
ペンシルベニア州立大学のラフレニエールとニューマンは、2020年に「Exposing Worry's Deceit(心配の欺きを暴く)」という研究を発表しました。参加者に日々の心配をその場で記録してもらい、後日それが実際に起こったかどうかを一件ずつ追跡するという、とてもシンプルで強力なデザインの研究です。
結果、記録された心配のうち91.4%は実現しませんでした。つまり実際に起こった心配は8.6%だけでした。しかもこの研究の参加者は、後述するとおり臨床レベルで心配が強い人たちです。人一倍心配している人たちの予測でさえ、9割以上が外れていたことになります。「心配事の9割は起こらない」は、少なくともこの研究の範囲では、励ましの言葉ではなく実測値でした。
「どうやって数えたのか」― 研究のデザインを詳しく見る
数字だけ聞くと出来すぎに感じるかもしれません。この研究の価値はむしろ、心配という捉えどころのないものを「当たったか外れたか」まで検証できる形に落とし込んだ、その方法にあります。少し詳しく見てみましょう。
参加したのは、全般性不安症と診断された29人
参加者は、全般性不安症(GAD)の基準を満たす29人でした。全般性不安症は、さまざまな事柄への強い心配が慢性的に続く状態です。つまりこの研究は「たまに心配する普通の人」ではなく、日常的に心配に悩まされている人たちを対象にしています。心配の的中率を測るうえで、これ以上ないほど心配のサンプルが集まりやすい集団だと言えます。
10日間、1日4回の通知で「その場の心配」を記録
参加者は10日間にわたり、携帯電話に届くテキストメッセージの通知を合図に、1日4回(朝・昼すぎ・夕方・夜の各時間帯に1回ずつ)、直近2時間以内に浮かんだ心配をその場で日誌に記録しました。後から思い出して書くのではなく、心配が生じた直後に記録することで、記憶の美化や取りこぼしを防ぐ設計です。
記録する心配には条件がありました。「なんとなく不安」のような漠然としたものではなく、「実際に起こったかどうかを後で確認できる、具体的な予測」だけを記録すること。たとえば「一生結婚できないのではないか」のような30日以内に検証できない心配は集計から除かれています。この厳密さが、9割という数字の信頼性を支えています。
毎晩の見直しと、30日間の追跡
参加者は毎晩22時に、その日の記録をオンラインで転記し、これまでに記録したすべての心配を見直して、「実際に起こったか」「起こったなら、予想どおりだったか、予想より悪かったか、予想より良かったか」を報告しました。この追跡は30日間続けられ、最終的な集計は2人の独立した評価者が、事前に決められた基準に沿って行っています。同じ心配を二重に数えない、といったルールも定められていました。
結果の詳細:中央値は93.5%、7人は「全部外れた」
こうして数えた結果が、全体で91.4%(一人あたりの平均では89.6%)という不実現率です。一人ひとりの数字を見ると、中央値は93.5%。そして最も多かったパターンは「記録した心配が1つも実現しなかった」つまり100%外れで、29人中7人がこれに該当しました。さらに参加者が事前に見積もっていた「この心配が実現する確率」は、実際に観測された確率よりはるかに高かったことも報告されています。心配は、量が多いだけでなく、確率の見積もりとしても大きく外れていたのです。
実現した8.6%のうち、約3割は「思ったより良い結末」だった
見逃せないのが、実際に起こった8.6%の中身です。実現した心配のうち30.1%は「予想していたより良い結末だった」と評価されました。つまり「当たった」場合でさえ、頭の中で描いていた最悪のシナリオどおりに進むとは限らなかったのです。
「外れの多さ」に気づいた人ほど、症状が改善した
この研究にはもう1つ重要な発見があります。心配が外れた割合が高かった人ほど、研究期間を通じた不安症状の改善が大きかったのです。研究チームはこの結果から、「自分の心配は実際にはほとんど当たらない」という証拠を自分の目で確かめること自体に、心配をゆるめる効果がある可能性を指摘しています。「心配事の9割は起こらない」と聞かされるのではなく、自分の心配の的中率を自分で記録してみる。これは後半で紹介する実践にも直結する知見です。
約2000年前、セネカは同じことを言っていた
興味深いのは、この「実測」が裏づけた洞察を、約2000年前のローマの哲学者セネカがすでに言葉にしていたことです。友人ルキリウスに宛てた書簡13「根拠なき恐れについて」に、こんな一節があります。「私たちを怯えさせるものは、実際に押しつぶすものよりも多い。私たちは現実によってよりも、想像によって苦しむことのほうが多いのだ」。
セネカは続けて、苦しみには「必要以上に苦しむもの」「早すぎる時期に苦しむもの」「そもそも苦しむ必要のないもの」があると指摘し、危機が来る前に不幸になるな、と助言します。あなたが青ざめたその危険は、来ないかもしれないし、少なくともまだ来ていないのだから、と。心配の9割が想像の中にしかないという知恵は、統計が生まれるはるか前から、人間が繰り返し確かめてきたことなのかもしれません。
そもそも心配とは何か ― なぜ「起こらない」と分かっても止まらないのか
「9割外れる」と知っても、それだけで心配が消えるわけではありません。ここで、心理学が心配をどう定義しているかを見ておくと、止まらない理由が腑に落ちます。心配研究の第一人者ボーコベックらは、1983年の研究で心配を次のように定義しました。「心配とは、否定的な感情を帯びた、比較的コントロールしにくい思考とイメージの連鎖である。それは、結果が不確実で、1つ以上の悪い結果の可能性を含む問題について、頭の中で問題解決を試みるプロセスである」。
この定義には、心配の性質が3つ詰まっています。第一に、心配は「問題解決の試み」だということ。心配する人は怠けているのでも臆病なのでもなく、頭の中で未来の問題を先回りして解決しようとしています。だからこそ「心配するのをやめる」ことが、「備えを放棄する」ことのように感じられてしまうのです。
第二に、心配が扱うのは「結果が不確実な」問題だということ。不確実である以上、頭の中でいくら考えても答えは出ず、思考は終わりに辿り着けません。第三に、心配は「比較的コントロールしにくい連鎖」だということ。同じ研究では、自分を心配性だと考える人ほど、いったん心配が始まると思考への割り込みを止めにくいことも示されています。考えても答えが出ない問題を、止めにくい思考の連鎖で解こうとする。これが、9割外れると頭で分かっていても心配が続く仕組みです。考えることそのものが止められなくなっていると感じる場合は、考えすぎがやめられないときの対処法も参考にしてください。
「杞憂に終わった安堵」が、心配のクセを強くする ― 2025年の最新研究
9割外れる心配を、なぜ人は続けてしまうのか。この問いに新しい答えを出したのが、91.4%の研究と同じニューマンの研究室から2025年に発表された続報にあたる研究です。不安症やうつのある76人と、そうでない85人の合計161人が、8日間・1日8回、その瞬間の感情と心配の度合いを記録しました。
分かったのは、心配の意外な「報酬」です。事前に強く心配していた人ほど、良い出来事や「心配したことが起こらなかった」という安堵の場面で、不安や悲しみが大きく下がるだけでなく、幸福感の跳ね上がりも大きかったのです。心配の9割は外れるのですから、心配する人は「杞憂に終わった安堵」をほぼ毎回受け取ることになります。この落差の快感が、心配のクセを強化していたわけです。さらに症状が重い人ほど、「良いことが起きたときに嬉しく驚けるように、わざと悲観的に考えている」という項目に高く同意していました。
研究チームはこれを、「一瞬のポジティブ感情を買うために、恒常的なネガティブ状態を支払っている」取引だと結論づけています。心配は意志の弱さや欠陥ではなく、割に合わない感情の戦略として働いている。そう理解すると、「心配をやめられない自分はダメだ」と責める必要がないことも、「安堵の快感のために前払いしている不安は高すぎないか」と問い直す余地があることも、見えてきます。
心配や悩みを抱えるのは、ごく普通のこと
ここまで読んで「自分は心配しすぎだ」と感じた人にこそ、確認しておきたいデータがあります。厚生労働省の「令和4年 国民生活基礎調査」によると、12歳以上で「悩みやストレスがある」と答えた人は男性で41.2%、女性で50.6%。女性はおよそ2人に1人が、日常的に何らかの悩みやストレスを抱えています。悩みの原因の上位は男女とも「自分の仕事」「収入・家計・借金等」「自分の病気や介護」で、仕事・お金・健康という、まさに心配の定番が並びます。
一方で同じ調査では、過去1か月のこころの状態を測る指標(K6)で最も低い「0〜4点」の人が70.9%と最多で、これはすべての年齢層で共通でした。つまり、多くの人が悩みを抱えながらも、大半は深刻な心理的苦痛までは至っていないということです。心配することは異常ではなく、人が未来に向かって生きている証のようなものです。問題は心配の有無ではなく、心配との付き合い方にあります。
残り8.6%にどう備えるか ― 心配を「仕分ける」という実践
「9割は起こらない」と分かっても、残りの8.6%は実際に起こります。だからこそ、すべての心配を頭ごなしに打ち消すのではなく、起こる心配と起こらない心配を分けて扱うことが現実的な備えになります。ここでは、紹介した研究の知見をそのまま日常に持ち込む形で、3つのステップを提案します。
ステップ1:心配を書き出して、検証できる形にする
まず、頭の中の心配を紙に書き出します。このとき、研究の参加者が求められたのと同じように「後で当たったか外れたか確認できる、具体的な予測」の形にするのがコツです。「仕事がうまくいかない気がする」ではなく「金曜のプレゼンで質問に答えられず、企画が通らない」。漠然とした不安は、具体化した時点で輪郭が小さくなることが多く、また後日「当たったか」を確かめられるようになります。
ステップ2:「いま対処できるもの/できないもの」に仕分ける
次に、書き出した心配を2つに仕分けます。基準は1つだけ。「それに対して、いまの自分にできることがあるか」です。「プレゼンで答えられないかもしれない」なら、想定問答を3つ用意することはいまできます。一方「景気が悪化したらどうしよう」は、いまの自分に打てる手はほとんどありません。心配の苦しさの多くは、対処できないものを対処しようとして頭の中でこね続けることから来ています。仕分けるだけで、頭の中の渋滞が目に見えてほどけます。
ステップ3:対処できるものは次の一手に、できないものは追跡に回す
対処できる心配は、心配のままにせず「次の一手」に変換します。想定問答を書く、健診を予約する、上司に一言相談する。行動に変換された心配は、もう心配ではなく準備です。これが「実際に起こる8.6%」への最も確実な備えになります。
対処できない心配は、消そうとせず「追跡リスト」に残しておき、1か月後に当たったかどうかを確かめてみてください。紹介した研究では、心配の外れの多さを自分の記録で確かめた人ほど症状が改善していました。「自分の心配は9割外れる」を、格言としてではなく自分自身のデータとして持てたとき、心配との距離感は変わります。心配性という気質そのものと向き合いたい場合は、心配性を直したい人のための記事でより広く扱っています。
そしてもう1つ。心配の根っこには、「自分はどう生きたいのか」がまだ言葉になっていない、という事情が隠れていることがあります。未来が漠然としているほど、心配は際限なく湧くからです。WellGrow の思想ページでは、正解を急いで心配を打ち消すのではなく、問いとの対話を通して自分の言葉が立ち上がるのを待つ、という考え方を紹介しています。心配を仕分けたその先で、自分が本当に守りたいもの・望んでいるものを言葉にする助けになるはずです。
注意:不安が強い状態が2週間以上続く場合は専門機関へ
この記事で紹介した研究の参加者は、全般性不安症という、心配が慢性的に続く状態の診断を受けた人たちでした。セルフケアで扱える範囲を超えた不安は、決して珍しいものではありません。以下のような状態が2週間以上続いている場合は、一人で抱え込まず、心療内科・精神科や、かかりつけ医、地域の相談窓口に相談してください。
- 心配や不安で、眠れない日が続いている
- 心配が頭から離れず、仕事や家事、人との約束に支障が出ている
- 動悸・息苦しさ・胃の不調など、体の症状が続いている
- 自分を責める気持ちや、消えてしまいたい気持ちが繰り返し浮かぶ
この記事で紹介した心配の仕分けは、あくまで一般的なセルフケアの範囲のものです。つらさが強いときは、早めに専門家を頼ることが最善の備えになります。
よくある質問
Q. 「心配事の9割は起こらない」は科学的に本当ですか?
2020年に発表された実測研究では、全般性不安症のある29人が記録した心配のうち91.4%が実現しませんでした。格言の「9割」とほぼ一致する結果です。ただし1つの研究であり、対象は心配が特に強い人たちに限られます。数字を鵜呑みにするより、記事で紹介したように自分の心配を記録して、自分自身の的中率を確かめてみることをおすすめします。
Q. 心配して備えたから起こらなかっただけでは?
その可能性がある心配も、確かに含まれます。ただしこの研究で記録されたのは「自分の行動では左右しにくい結果」を含むさまざまな心配で、参加者が事前に見積もった実現確率は、実際の確率よりはるかに高いものでした。備えの効果だけでは、この見積もりと現実の大きなずれは説明しきれません。心配が役に立つのは、それが具体的な行動に変わったときです。頭の中で繰り返すだけの心配は、備えではなく消耗になります。
Q. 起こってしまう8.6%が怖くて、結局心配がやめられません
8.6%をゼロにする方法はありませんが、実現した心配の30.1%は「予想より良い結末」だったという研究結果は覚えておく価値があります。起こったとしても、頭の中の最悪シナリオどおりに進むとは限りません。そのうえで、いま対処できる心配は行動に変換し、対処できない心配は追跡リストに回す、という仕分けを試してみてください。不安で日常に支障が出る状態が2週間以上続く場合は、専門機関への相談を検討してください。
まとめ
あなたがこの1年で抱えた心配のうち、実際に起こったものはいくつあったでしょうか。思い出せないなら、それ自体が答えかもしれません。今日の心配をひとつ書き出して、1か月後の自分に採点させてみてください。
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