第 3 章 ― 意識の構造を、知る
3-9
潜在意識との関係 ― 95%をどうマネジメントするか
ここまで、意識のスポットライト、予測、成長、集中、概念、記憶、価値基準と、人間の内側の構造を、ひとつずつ見てきた。
ここでひとつ、立ち止まってほしい事実がある。
ここまで扱ってきた「意識」というものは、実は、人間の内側で起きていることの、ほんの一部にすぎない。
人間の内側の本当に大きな領域は、意識ではない、別のところで動いている。
それが、潜在意識である。
ここから、この巨大な領域に、目を向けていきたい。
意識は、氷山の一角
人間の心を、しばしば氷山にたとえる。
海の上に顔を出している部分は、ほんのわずかである。
氷山の本体は、海面下に、目に見えない形で広がっている。
人間の心も、これと同じ構造をしている。
自分で自覚できている意識は、全体のごく一部、わずか5%程度だと言われる。
残りの95%は、自覚されることのない領域 ― 潜在意識である。
つまり、私たちが「自分」だと思っているものは、本当の自分の20分の1にすぎない。
残りの大部分は、見えないところで、絶えず動いている。
これは、少し怖い話に聞こえるかもしれない。
だが、ちゃんと理解すれば、人生を扱ううえで、決定的に重要な視点になる。
劇場のメタファーで、もう一度
少し前の節で(3-2)、意識を劇場のスポットライトにたとえた。
舞台の上には無数のものがあるが、スポットライトが当たった部分だけが、観客の目に飛び込んでくる、と。
このメタファーを、ここでもう一度、思い出したい。
いま、あなたが意識を向けている場所は、スポットライトの当たっている場所である。
そこに、ふだん「自分が感じている世界」が広がっている。
だが、劇場というものを、もう少し広く眺めてみてほしい。
舞台の外には、舞台袖がある。
楽屋では、役者たちが控えている。
天井には、無数の照明と装置がある。
床下には、配線が走っている。
観客席にも、人が座っている。
受付には、スタッフがいる。
これらすべてが、劇場という全体を作り上げている。
スポットライトが当たっているのは、そのうちの、ほんの一部の舞台の上だけである。
潜在意識とは、まさにこの「スポットライトの当たっていない場所」のことである。
見えていないだけで、確かに存在している。
気づかれていないだけで、確かに劇場全体を動かしている。
舞台袖で誰かが動かなければ、次の役者は出てこられない。
照明係が動かなければ、スポットライトすら点かない。
スポットライトが当たっている5%は、当たっていない95%に、深く支えられている。
これが、意識と潜在意識の関係である。
無意識が、毎日あなたを動かしている
ここで、日常の場面で考えてみたい。
たとえば、ある人と初めて会ったとき。
「なぜか、この人とは合わない気がする」と感じたことはないだろうか。
特に理由はない。だが、なんとなく嫌な感じがする。
あるいは逆に、「なぜか、この人には惹かれる」と感じることもある。
これも、明確な理由は説明できない。
ただ、心が向く。
これらは、すべて潜在意識の働きである。
意識の上では、何も判断していないと感じる。
だが、潜在意識のレベルでは、すでに判断が下されている。
その判断が、感情として、意識の表面に立ち上がってくる。
「なぜか」と感じるとき、それは潜在意識が動いているサインである。
そして、もうひとつ、もっと厄介なことがある。
私たちの行動の多くは、意識的な決定ではなく、潜在意識のパターンによって決められている。
「自分で選んだ」と思っているものも、実は潜在意識が選ばせていることが多い。
これが、人生がなかなか変わらない、最大の理由でもある。
意識の上で「変わろう」と決めても、潜在意識のパターンが変わらなければ、行動は元に戻る。
5%の決意は、95%の慣性に、簡単に押し戻されてしまう。
ここで、ひとつの勘違いを解いておきたい
第3章の最初から、「意識を扱えれば、人生は変わる」と言ってきた。
これは、間違っていない。
だが、ここで、誤解してはいけないことがある。
意識を扱うとは、頭の中で「できる!できる!」と唱えることではない。
「幸せ!幸せ!」と念じることでもない。
単純に、意識の上でポジティブ思考をすれば人生が変わる、というのは、半分しか正しくない。
なぜか。
自由エネルギー原理(3-3)を思い出してほしい。
脳は、予測通りになるように動く、という話だった。
ここで重要なのは、その「予測」を立てているのは、意識ではなく、潜在意識のほうだということである。
意識の上で「できる」と唱えても、潜在意識のレベルで「できない」と予測していれば、脳は「できない」という予測のほうを実現しようとする。
意識の上で「幸せ」と唱えても、潜在意識のレベルで「自分は幸せになる資格がない」と感じていれば、その方向に現実が動いていく。
つまり、5%の意識だけがどんなにポジティブでも、95%の潜在意識が動かなければ、結果は変わらない。
これが、自己啓発的なポジティブシンキングが、しばしば効果を持たない理由である。
表面のことばだけを変えても、海面下の95%は、何も変わっていない。
人生を変えたいなら、95%のほうに、ちゃんと働きかける必要がある。
潜在意識を、直接コントロールすることは難しい
ここで、率直に書いておきたいことがある。
潜在意識を、直接コントロールすることは、ほぼできない。
「潜在意識を変えたい」と意識的に思っても、潜在意識は、すぐには動かない。
「ネガティブな反応をやめよう」と決意しても、似た状況に出会えば、また同じ反応が立ち上がる。
これは、潜在意識を扱うことの、難しさの本質である。
潜在意識は、意識のコントロールが直接届かない場所にある。
舞台の上のスポットライトを動かすのは、簡単である。
だが、舞台袖の人や、天井の装置や、観客席を、スポットライトの操作だけで動かすことはできない。
それでも、絶望的な話ではない。
直接動かせなくても、ゆっくりと、間接的に変えていくことはできる。
潜在意識は、地道に変えていける
潜在意識は、毎日の積み重ねで、少しずつ変えていける。
一瞬で変わるとか、何かの儀式をすれば一気に書き換わるとか、そういうものではない。
だが、毎日のことばや体験を、丁寧に積み重ねていけば、潜在意識は、確実に変わっていく。
潜在意識は、長い時間をかけて、過去の経験の積み重ねによって作られたものである。
だから、変えるのにも、同じように時間がかかる。
ただし、変える方法は、はっきりしている。
意識の5%から、潜在意識の95%に、毎日少しずつ働きかけ続けること。
毎日、自分にどんなことばをかけるか。
毎日、何に意識を向けるか。
毎日、どんな体験を積み重ねるか。
毎日、感情とどう向き合うか。
これらを意識的に積み重ねていけば、潜在意識は、ゆっくりと、しかし確実に変わっていく。
急がず、焦らず、しかし、確実に。
これが、潜在意識との付き合い方の、本質である。
潜在意識は、敵ではなく、味方にできる
最後に、潜在意識への向き合い方として、大事な視点を置いておきたい。
潜在意識は、自分の中の「コントロールできない他者」ではない。
潜在意識は、自分の一部であり、本来は自分の味方である。
潜在意識は、過去の膨大な経験から、自分を守ろうとしている。
危険を避け、生存を支え、価値を守ろうとしている。
その動きが、ときに過剰だったり、いまの現実に合わなかったりすることがあるだけである。
だから、潜在意識と戦う必要はない。
潜在意識を、否定したり、押し殺したりする必要もない。
ただ、自覚的な意識のほうから、潜在意識に、ゆっくりと働きかけ続けていけばいい。
5%の力で、95%を一気に変えることはできない。
だが、5%から、毎日、少しずつ95%に働きかけ続ければ、95%は変わっていく。
これは、長い時間がかかる営みである。
即効性はない。
だが、確実な営みである。
WellGrowが扱っているのも、まさにここ
WellGrowが毎日の対話で大事にしているのも、まさにこの領域である。
意識的な5%の対話を、毎日少しずつ積み重ねていくことで、潜在意識の95%が、ゆっくりと変わっていく。
一回の対話で、何かが劇的に変わることはない。
だが、毎日続けていれば、潜在意識のパターンは、確実に書き換わっていく。
そして、ある日ふと、自分の反応が、以前とは違うものになっていることに気づく。
これが、潜在意識を味方にしていく、ということである。
急がず、焦らず、しかし、確実に。
このペースで、95%と付き合っていく。
次の節では、こうした意識と潜在意識の関係を、もうひとつの角度から見ていきたい。
「引き寄せの法則」と呼ばれる現象を、神秘ではなく、構造として読み解いていく。