第 2 章 ― よく生きるとは、何か
2-7
成功との付き合い方
前の節で、本当の幸せは、自分の感覚の中にしかない、という話をした。
ここで、もうひとつ、現代を生きる私たちが大きな影響を受けているテーマと向き合いたい。
「成功」である。
幸せと成功は、しばしば混同される。
だが、この二つは、まったく別のものである。
別のものとして扱わないと、人生はおかしな方向に向かっていく。
ここでは、成功というものとの、健康な付き合い方を考えていきたい。
いまの世の中は、成功をよしとする文化が広まっている
現代社会を見渡すと、ひとつのことがはっきりしている。
成功を「よし」とする文化が、社会全体を覆っている。
ここで言う「成功」とは、一般的にこういうものを指す。
高い地位
高い収入
広い名声
大きな影響力
立派な肩書き
周囲からの尊敬
メディアを開けば、毎日のように「成功者」が取り上げられている。
ビジネスで成功した起業家、世界で活躍するアスリート、大きな影響力を持つクリエイター、若くして経済的自由を手にした人。
彼らの人生が、ロールモデルとして提示される。
「こういう人になるべきだ」「こういう人を目指そう」というメッセージが、毎日少しずつ、社会に蓄積されていく。
そして気づかないうちに、多くの人が、無意識のうちに、この「成功」を人生の目標として設定している。
「もっと稼げるようになりたい」
「もっと立場のある仕事に就きたい」
「もっと多くの人に認められたい」
これらの願いは、自分の中から自然に湧いたように感じる。
だが、その背後には、社会が長年かけて作り上げてきた「成功は素晴らしい」という文化の影響が、確かに流れている。
成功には、確かな価値がある
ここで、成功を頭ごなしに否定するつもりは、まったくない。
成功には、確かな価値がある。
それを、まずしっかり認めておきたい。
成功とは、別の言葉で言えば、こういうものである。
コミュニティに貢献し、その貢献が認められた結果として得られるもの
これは、決して悪いことではない。
何かに真剣に取り組んで、誰かの役に立って、その結果として周囲から認められる。
これは、人間として、とても自然で、健全な営みである。
成功している人の多くは、誰かの問題を解決したり、誰かの人生を豊かにしたり、社会に新しい価値を生み出している。
その結果として、対価や評価を受け取っている。
これは、まぎれもなく、価値のあることである。
「成功なんて、くだらない」「お金なんて、汚いものだ」と切り捨てる考え方もあるが、それは少し違う。
成功を目指すこと自体は、否定する必要はない。
むしろ、社会の中で何かを成し遂げたいと願うことは、人間として自然な欲求である。
成功を目指し、得られるものは、それ自体が大事である。
ただし、成功だけを追っていると、見落とすものがある
成功の価値を認めたうえで、その先に、もうひとつ大事な話がある。
成功「だけ」を追っていると、見落とすものがある。
具体的には、こういうことが起きる。
他人の物差しで、自分の人生を測ってしまう
成功というのは、本質的に「他人による評価」である。
地位は、組織が認めることで成立する。
収入は、市場が認めることで決まる。
名声は、社会が認めることで広がる。
つまり、成功を追うほど、自分の人生の評価基準が、自分の外側に置かれることになる。
「自分はどう感じるか」よりも、「他人にどう見られるか」が、判断基準になっていく。
自分の人生なのに、ものさしが自分の中にない、という不思議な状態になる。
達成しても、満たされない
成功を追っている人がよく言うことばがある。
「次の目標に到達したら、満足できるはずだ」
「もう少し稼げるようになれば、安心できるはずだ」
「あのポジションに就いたら、認められるはずだ」
ところが、実際にそこに到達すると、不思議なことに、満たされた感覚は長く続かない。
達成した瞬間は嬉しい。
だが、すぐに次の目標が見えてくる。
そして、その目標に到達するために、また走り始める。
これを繰り返している人は、本当に多い。
傍から見れば成功しているように見える人が、「ずっと満たされなかった」と告白するのを、何度も聞いてきた。
これは、本人の問題ではない。
成功を追う構造そのものに、満たされなさが組み込まれているのである。
もっと、もっと、と追い続けて疲弊する
成功は、本質的に「もっと」を求める性質を持っている。
もっと多く。もっと速く。もっと高く。
これは、競争社会の中では合理的な動きである(1-11)。
だが、人間の心身には、限界がある。
「もっと」を追い続けると、どこかで燃え尽きる。
体を壊す人。
家族との時間を失う人。
心が干からびていく人。
ある日ふと、「自分は、何のために走ってきたのか」と立ち止まる人。
成功を追い続けた結果として、こうした状態に陥る人は、決して少なくない。
客観的な評価ばかりに目が向き、自分の感覚を失ってしまう
最も深刻なのが、これである。
成功を追っていると、「他人にどう見られるか」「客観的な指標でどう測られるか」に、意識が向き続ける。
その結果、前の節(2-6)で見た「自分の感覚」が、だんだん見えなくなっていく。
いま、自分は本当に幸せか。
いま、自分は何を感じているか。
いま、自分は何を望んでいるか。
こうした内側からの声が、外側の評価の音にかき消されていく。
気づいたときには、自分の人生なのに、自分が何を感じているか分からなくなっている。
これが、成功だけを追ってきた人の、しばしば陥る状態である。
だから、幸せも、同じくらい大事にしなければならない
ここで、整理しておきたい。
成功は、外側から測られるもの。幸せは、内側にあるもの(2-6)。
この二つは、まったく別のものである。
成功しているからといって、幸せとは限らない。
逆に、社会的な成功とは無縁でも、深く幸せに生きている人もいる。
そして、ここが大事なところだが、どちらか片方だけでは、人生は十分にならない。
成功だけを追って、幸せを置き去りにすれば、満たされない人生になる。
幸せだけを大事にして、何も成し遂げない人生も、どこか物足りなくなる。
両方を、同じくらい大事にする。
これが、本当の意味で人生を生きるということである。
幸せと成功を、対立させない。
どちらも価値がある。だから、どちらも追っていく。
ただし、優先順位を、自分の中で曖昧にしないことが大事である。
成功と幸せ、両方を大事にしながら生きるには
では、具体的にどうすれば、この二つを両立できるのか。
答えは、シンプルである。
自分の物差しを、自分で持つこと。
これが、両立の大きなカギになる。
社会の物差しでは、こうである。
「収入が高い人ほど、価値がある」
「地位が高い人ほど、優れている」
「フォロワーが多い人ほど、成功している」
この物差しを、丸ごと自分のものとして取り入れてしまうと、人生は他人の評価に振り回される。
代わりに、自分の物差しを作る。
自分にとって、何が本当に大切か
自分にとって、どんな人生が「よく生きた」と言える人生か
自分にとって、どこまで成功を求め、どこから幸せを優先するか
これらを、自分の頭で考えて、自分のことばで持つ。
自分の物差しを持っていれば、社会の評価にも振り回されない。
成功も追えるし、幸せも見失わない。
社会の中で何かを成し遂げながら、自分の内側も大事にできる。
これが、両立の現実的な方法である。
自分の物差しを磨く技術
「自分の物差しを持て」と言われても、いきなりは持てない。
これは、急に手に入るものではなく、技術として磨いていくものである。
ここまでの第2章で見てきた内容が、すべて、この技術につながっている。
常識を疑うこと(2-4)
社会の常識を、ひとつずつ吟味して、自分にとって本当に大事かどうかを、確かめる。
真理を見ること(2-5)
自分の現実、自分の感覚を、ありのままに見る。願望や恐怖で歪めない。
自分の感覚を取り戻すこと(2-6)
「幸せ」ということばではなく、自分の中で何が起きているかという感覚に、丁寧に光を当てる。
そして、次の第3章で扱うが、自分の中にある価値基準を、意識化していく(3-10)。
これらの技術を、毎日少しずつ磨いていく。
そうすることで、自分の物差しが、だんだん輪郭を持って立ち上がってくる。
「私にとって大事なのは、これだ」
「私にとって、これがあれば満たされる」
「私にとって、これは追う必要のないものだ」
こうした自分のことばを、持てるようになっていく。
WellGrowは、成功を否定する場ではない
ここで、はっきりさせておきたい。
WellGrowは、成功を否定する場ではない。
「成功を目指すのは、やめましょう」とは、決して言わない。
「お金や地位は、捨てましょう」とも、言わない。
そういう極端なメッセージは、現代を生きるリアルな人間には、フィットしない。
WellGrowが大事にしているのは、もっとバランスのある姿勢である。
社会の中で、成功も求めながら、同時に、自分の幸せも見失わない。
仕事で何かを成し遂げたい。
収入を上げて、家族にいい暮らしをさせたい。
社会に何かを残したい。
こうした成功への意志は、大事にしていい。
その上で、走り続ける中で、自分の内側を見失わない。
家族との時間を、ちゃんと味わう。
朝のコーヒーの一口目を、ちゃんと感じる。
「いま、自分は本当に幸せか」を、ときどき自分に問いかける。
外側で何かを成し遂げながら、内側を整える。
この両立を、毎日の対話の中で、少しずつ支えていく。
これが、WellGrowの役割である。
成功は、人生を豊かにしてくれる、確かな要素である。
だが、成功だけでは、人生は満たされない。
幸せは、人生の中心にある、本物の感覚である。
だが、幸せだけを追って、何も成さない人生も、どこか物足りない。
両方を、自分の物差しの上で、バランスを取って生きていく。
これが、現代を生きる人間にとっての「よく生きる」の、現実的なかたちである。
WellGrowは、その両立を、毎日3分の対話で、伴走する場である。
社会の中で走り続けるあなたが、ときどき立ち止まって、自分の内側を確かめる時間を持てるように。
成功を追いながらも、幸せの感覚を、忘れずに歩いていけるように。
成功も、幸せも、どちらもあなたのものである。
そのどちらもを、ちゃんと自分のものとして生きていける ― それが、よく生きるということである。