第 1 章 ― 私たちは、どこにいるのか
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競争と、真の豊かさのGAP
ここまで、現代の生きづらさの構造を、いろいろな角度から見てきた。
ここで、もうひとつ、現代を生きるうえで避けて通れない構造に目を向けたい。
競争である。
私たちは、競争社会の中で生きている。この事実を直視せずに、現代の生きづらさは語れない。
現代の経済は、競争を軸に動いている
現代の経済の仕組みは、競争を中心に組み立てられている。
企業は、競合他社と競争する。よりいい商品を、より安く、より早く提供できた者が、市場で勝ち、利益を得る。
個人は、他人と競争する。より高い学歴、より良い就職先、より高い役職、より多い収入を手にした者が、社会的に認められる。
そして、競争に勝ち続けるために、誰もがこう求められる。
もっと速くもっと多くもっと目立つようにもっと効率的に
止まることは、相対的に負けることを意味する。だから、常に走り続けなければならない。
これが、現代経済の基本構造である。
競争社会は、確かに人類を進化させてきた
ここでひとつ、ちゃんと押さえておきたいことがある。
競争社会を、頭から否定したくはない。
競争があったからこそ、人類はここまで来た。
物質的な選択肢は、過去のどの時代より爆発的に増えた生活水準は、200年前の王侯貴族を上回る水準にまで上がったイノベーションのスピードは、加速し続けている医療、技術、インフラは、競争を通じて急速に進化してきた
スマホ一台を例にとっても、これがほぼ毎年進化していくのは、競争があるからである。競争がなければ、技術は停滞し、価格は下がらず、選択肢も限られていたはずである。
私たちが当たり前に享受している便利さの、ほとんどは、競争が生み出してきたものである。
ここはまず、しっかりと前提として置いておきたい。
一方で、競争社会には構造的なGAPがある
その上で、見落としてはいけないことがある。
競争社会には、構造的なGAPが組み込まれている。そのGAPが、現代人の消耗の大きな原因になっている。
このGAPを理解するために、ビジネスの「本来の姿」と「現実の姿」を、並べて見てみたい。
ビジネスの本来の姿 ― 役割分担で、みんなで豊かになる仕組み
ビジネスの本来の姿は、とてもシンプルである。
誰かが農業をやる。誰かが料理を作る。誰かが道具を作る。誰かが家を建てる。誰かが教育を担う。
それぞれが自分の得意を持ち寄って、社会全体として豊かになっていく。
一人で全部やろうとすれば、何もまともにできない。だから、役割分担する。役割分担して、お互いの得意を交換する。これがビジネスの起源であり、本質である。
ビジネスとは、本来、「みんなで幸せになるための仕組み」なのである。
だが、現実のビジネスは、お金を生むことがゴールになっている
ところが、現実のビジネスは、いつの間にか別のものに変質している。
ビジネスのゴールが、「人を幸せにすること」ではなく、「お金を生むこと」になっている。
商品やサービスは、こう設計される。
「これは人を本当に幸せにするか」ではなく、「これは売れるか」「これは利益が出るか」で。
人を幸せにするものが売れるなら、ちゃんと作られる。だが、人を幸せにしないものでも売れるなら、それも作られる。むしろ、売れる方を優先するのが、競争に勝つための合理的な判断になる。
ここに、ビジネスと、人の幸せの間に、深いGAPが生まれる。
このGAPは、具体的にどう現れているか
このGAPは、現代社会のあちこちで、具体的な現象として現れている。
不安や欠乏感を煽って、商品を買わせる
「このままでは将来お金が足りない」「このままではモテない」「このままでは老ける」「このままでは置いていかれる」
広告は、人の不安や欠乏感を刺激して、商品を買わせる構造になっている。本当はなくても困らないものを、「ないと困る」と思わせるのが、現代マーケティングの基本である。
時間と注意そのものが、商品化されている
SNS、動画プラットフォーム、ソーシャルゲーム ― これらは、人の時間と注意を集めて、それを広告主に売っている。
つまり、ユーザーの時間と注意が、商品そのものになっている。だから、これらのサービスは、人の時間を最大限に奪うように、最適化されていく。
「ついスマホを見続けてしまう」のは、あなたの意思が弱いからではない。意思を超えて、注意を奪うように設計されているからである。
健康に良くないものも、売れるなら作られる
過剰な糖分。過剰な脂質。依存性のある成分。
これらが「人にとって良くない」と分かっていても、売れるなら、商品として作られる。むしろ、依存性が高い方が、リピートが増えて、ビジネスとしては有利になる。
人の幸せを最大化するのではなく、人の購入を最大化するように、商品設計が向かっていく。
無駄な欲望が、必要なものに見せかけられる
「本当は必要のないもの」を、「ないと困るもの」のように見せる技術が、長年磨かれてきた。
ファッション、ガジェット、サブスクリプション、トレンド ― 多くの「欲しい」は、自分の中から湧いてきたものではなく、巧妙に作られたものである。
「自分が欲しいから買う」のではなく、「欲しいと感じさせられて買う」状態が、当たり前になっている。
これらすべては、競争に勝つために、合理的な選択として正当化されてしまう。責められるべき個人や企業がいるという話ではない。構造そのものが、こうなっているのである。
結果として、提供者も消費者も消耗する
この構造の中で、何が起きているか。
提供者側勝ち続けるために、より煽り、より依存させ、より搾取するような商品設計に向かいやすい。最初は「人の役に立ちたい」と始めたビジネスでも、競争に勝つために、徐々に変質していく。気がつくと、誰かを搾取することで利益を出している自分に、違和感を覚えるようになる。
消費者側煽られて、本当は欲しくないものを買い続ける。SNSに時間を奪われ、不要なものを買い、刺激の強いコンテンツに依存する。短期的な欲求は満たされるが、満たされた感覚は長続きしない。だからまた、次の刺激を探しに行く。本当の幸せには、いつまでも近づかない。
両側とも、消耗する。そして、競争社会の構造そのものは、誰かが意図的に悪いことをしているわけではないのに、誰もを少しずつ消耗させていく。
真の豊かさは、お金には換算されない
ここで、立ち止まって考えたいことがある。
あなたが本当に「幸せだな」「豊かだな」と感じる瞬間は、どんな瞬間だろうか。
信頼できる人が、そばにいること自分の好きなことに、時間を使えていること体が健康で、心が穏やかであること何かに没頭している瞬間「ああ、よく生きているな」と感じる感覚
これらは、すべて、お金には換算されない。そして、これらは、競争に勝つことでは、手に入らない。
むしろ逆である。競争に勝つことだけを追っていると、これらは、少しずつ手のひらからこぼれ落ちていく。
時間がなくなり、健康を損ない、関係が薄くなり、「よく生きている」という感覚が薄れていく。
数字の上では成功していても、真の豊かさからは遠ざかっていく ― これが、競争社会の構造的なGAPのひとつである。
これは、競争社会や経済が「悪い」という話ではない
ここまで読んで、競争社会や資本主義経済を、「悪いもの」として受け取らないでほしい。
経済の仕組みが人類にもたらしてきた恩恵は、計り知れない。競争があったから、技術は進化し、選択肢は増え、生活水準は上がった。私たちが今日、この豊かさの中で生きていられるのは、競争社会の恩恵である。
そのうえで、こう言える。
競争社会という構造を、無自覚に飲み込まれると、消耗する。その構造を意識したうえで、自分なりの距離感を取らないと、真の豊かさからは遠ざかっていく。
大事なのは、競争社会の中で、自分を見失わないこと
では、どうすればいいのか。
競争社会を「拒否する」ことではない。仙人のように山に篭る話でもない。
大事なのは、競争社会の中で、自分を見失わないことである。
これは、3つの立場で、それぞれに意味を持つ。
提供者として何かを売る側に立つとき、誰かを搾取して奪うようなビジネスをしない。不安を煽って買わせる仕組みではなく、本当に役に立つものを、ちゃんと届ける。利益を出すこと自体は悪ではないが、誰かを犠牲にしてまで利益を取らない。
消費者として受け取る側に立つとき、自分にとって本当に必要なものを選ぶ。広告に煽られて買うのではなく、自分の中で「これは本当に必要か」と問う。時間と注意も、自分にとって大切なものに使う。
自分の人生において他人と比較する物差しではなく、自分の物差しを持つ。社会の評価基準で自分の人生を測るのではなく、自分にとって何が大事かを、自分の中で確認する。
この3つのバランスを取りながら、競争社会の中で、自分の中心を保ち続ける。これが、現代を生きる人間に求められる、新しい技術である。
WellGrowは、競争の中で、自分の真の豊かさを見つけ直す場
WellGrowが提供したいのは、競争を否定する場ではない。競争に勝つためのツールでもない。
競争の中で、自分の真の豊かさを見つけ直す場である。
他人と比較するのではなく、自分の基準を作る消費で満たすのではなく、自分の内側を満たす注意を奪われるのではなく、自分で向ける競争に勝つことだけではなく、よく生きることを選ぶ
毎日3分、自分と対話する時間を持つ。その時間の中で、自分にとっての真の豊かさを、少しずつ見つけ直していく。
世界が競争を煽り、消費を煽り、不安を煽る中で、自分の中に、静かな中心を作っていく。
そこから世界を眺められるようになれば、競争社会の中にいても、自分を見失わずにいられる。むしろ、競争社会の中で、自分の真の豊かさを育てていくことができる。
WellGrowは、そのための毎日の練習場である。