第 1 章 ― 私たちは、どこにいるのか
1-11
競争と、真の豊かさのGAP
ここまで、現代の生きづらさの構造を、いろいろな角度から見てきた。
ここで、もうひとつ、現代を生きるうえで避けて通れない構造に目を向けたい。
競争である。
私たちは、競争社会の中で生きている。
この事実を直視せずに、現代の生きづらさは語れない。
現代の経済は、競争を軸に動いている
現代の経済の仕組みは、競争を中心に組み立てられている。
企業は、競合他社と競争する。
よりいい商品を、より安く、より早く提供できた者が、市場で勝ち、利益を得る。
個人は、他人と競争する。
より高い学歴、より良い就職先、より高い役職、より多い収入を手にした者が、社会的に認められる。
そして、競争に勝ち続けるために、誰もがこう求められる。
もっと速く
もっと多く
もっと目立つように
もっと効率的に
止まることは、相対的に負けることを意味する。
だから、常に走り続けなければならない。
これが、現代経済の基本構造である。
競争社会は、確かに人類を進化させてきた
ここでひとつ、ちゃんと押さえておきたいことがある。
競争社会を、頭から否定したくはない。
競争があったからこそ、人類はここまで来た。
物質的な選択肢は、過去のどの時代より爆発的に増えた
生活水準は、200年前の王侯貴族を上回る水準にまで上がった
イノベーションのスピードは、加速し続けている
医療、技術、インフラは、競争を通じて急速に進化してきた
スマホ一台を例にとっても、これがほぼ毎年進化していくのは、競争があるからである。
競争がなければ、技術は停滞し、価格は下がらず、選択肢も限られていたはずである。
私たちが当たり前に享受している便利さの、ほとんどは、競争が生み出してきたものである。
ここはまず、しっかりと前提として置いておきたい。
一方で、競争社会には構造的なGAPがある
その上で、見落としてはいけないことがある。
競争社会には、構造的なGAPが組み込まれている。
そのGAPが、現代人の消耗の大きな原因になっている。
このGAPを理解するために、ビジネスの「本来の姿」と「現実の姿」を、並べて見てみたい。
ビジネスの本来の姿 ― 役割分担で、みんなで豊かになる仕組み
ビジネスの本来の姿は、とてもシンプルである。
誰かが農業をやる。
誰かが料理を作る。
誰かが道具を作る。
誰かが家を建てる。
誰かが教育を担う。
それぞれが自分の得意を持ち寄って、社会全体として豊かになっていく。
一人で全部やろうとすれば、何もまともにできない。だから、役割分担する。役割分担して、お互いの得意を交換する。これがビジネスの起源であり、本質である。
ビジネスとは、本来、「みんなで幸せになるための仕組み」なのである。
だが、現実のビジネスは、お金を生むことがゴールになっている
ところが、現実のビジネスは、いつの間にか別のものに変質している。
ビジネスのゴールが、「人を幸せにすること」ではなく、「お金を生むこと」になっている。
商品やサービスは、こう設計される。
「これは人を本当に幸せにするか」ではなく、
「これは売れるか」「これは利益が出るか」で。
人を幸せにするものが売れるなら、ちゃんと作られる。
だが、人を幸せにしないものでも売れるなら、それも作られる。
むしろ、売れる方を優先するのが、競争に勝つための合理的な判断になる。
ここに、ビジネスと、人の幸せの間に、深いGAPが生まれる。
このGAPは、具体的にどう現れているか
このGAPは、現代社会のあちこちで、具体的な現象として現れている。
不安や欠乏感を煽って、商品を買わせる
「このままでは将来お金が足りない」
「このままではモテない」
「このままでは老ける」
「このままでは置いていかれる」
広告は、人の不安や欠乏感を刺激して、商品を買わせる構造になっている。
本当はなくても困らないものを、「ないと困る」と思わせるのが、現代マーケティングの基本である。
時間と注意そのものが、商品化されている
SNS、動画プラットフォーム、ソーシャルゲーム ― これらは、人の時間と注意を集めて、それを広告主に売っている。
つまり、ユーザーの時間と注意が、商品そのものになっている。
だから、これらのサービスは、人の時間を最大限に奪うように、最適化されていく。
「ついスマホを見続けてしまう」のは、あなたの意思が弱いからではない。
意思を超えて、注意を奪うように設計されているからである。
健康に良くないものも、売れるなら作られる
過剰な糖分。
過剰な脂質。
依存性のある成分。
これらが「人にとって良くない」と分かっていても、売れるなら、商品として作られる。
むしろ、依存性が高い方が、リピートが増えて、ビジネスとしては有利になる。
人の幸せを最大化するのではなく、人の購入を最大化するように、商品設計が向かっていく。
無駄な欲望が、必要なものに見せかけられる
「本当は必要のないもの」を、「ないと困るもの」のように見せる技術が、長年磨かれてきた。
ファッション、ガジェット、サブスクリプション、トレンド ― 多くの「欲しい」は、自分の中から湧いてきたものではなく、巧妙に作られたものである。
「自分が欲しいから買う」のではなく、「欲しいと感じさせられて買う」状態が、当たり前になっている。
これらすべては、競争に勝つために、合理的な選択として正当化されてしまう。
責められるべき個人や企業がいるという話ではない。構造そのものが、こうなっているのである。
結果として、提供者も消費者も消耗する
この構造の中で、何が起きているか。
提供者側
勝ち続けるために、より煽り、より依存させ、より搾取するような商品設計に向かいやすい。
最初は「人の役に立ちたい」と始めたビジネスでも、競争に勝つために、徐々に変質していく。
気がつくと、誰かを搾取することで利益を出している自分に、違和感を覚えるようになる。
消費者側
煽られて、本当は欲しくないものを買い続ける。
SNSに時間を奪われ、不要なものを買い、刺激の強いコンテンツに依存する。
短期的な欲求は満たされるが、満たされた感覚は長続きしない。だからまた、次の刺激を探しに行く。
本当の幸せには、いつまでも近づかない。
両側とも、消耗する。
そして、競争社会の構造そのものは、誰かが意図的に悪いことをしているわけではないのに、誰もを少しずつ消耗させていく。
真の豊かさは、お金には換算されない
ここで、立ち止まって考えたいことがある。
あなたが本当に「幸せだな」「豊かだな」と感じる瞬間は、どんな瞬間だろうか。
信頼できる人が、そばにいること
自分の好きなことに、時間を使えていること
体が健康で、心が穏やかであること
何かに没頭している瞬間
「ああ、よく生きているな」と感じる感覚
これらは、すべて、お金には換算されない。
そして、これらは、競争に勝つことでは、手に入らない。
むしろ逆である。
競争に勝つことだけを追っていると、これらは、少しずつ手のひらからこぼれ落ちていく。
時間がなくなり、健康を損ない、関係が薄くなり、「よく生きている」という感覚が薄れていく。
数字の上では成功していても、真の豊かさからは遠ざかっていく ― これが、競争社会の構造的なGAPのひとつである。
これは、競争社会や経済が「悪い」という話ではない
ここまで読んで、競争社会や資本主義経済を、「悪いもの」として受け取らないでほしい。
経済の仕組みが人類にもたらしてきた恩恵は、計り知れない。
競争があったから、技術は進化し、選択肢は増え、生活水準は上がった。
私たちが今日、この豊かさの中で生きていられるのは、競争社会の恩恵である。
そのうえで、こう言える。
競争社会という構造を、無自覚に飲み込まれると、消耗する。
その構造を意識したうえで、自分なりの距離感を取らないと、真の豊かさからは遠ざかっていく。
大事なのは、競争社会の中で、自分を見失わないこと
では、どうすればいいのか。
競争社会を「拒否する」ことではない。
仙人のように山に篭る話でもない。
大事なのは、競争社会の中で、自分を見失わないことである。
これは、3つの立場で、それぞれに意味を持つ。
提供者として
何かを売る側に立つとき、誰かを搾取して奪うようなビジネスをしない。
不安を煽って買わせる仕組みではなく、本当に役に立つものを、ちゃんと届ける。
利益を出すこと自体は悪ではないが、誰かを犠牲にしてまで利益を取らない。
消費者として
受け取る側に立つとき、自分にとって本当に必要なものを選ぶ。
広告に煽られて買うのではなく、自分の中で「これは本当に必要か」と問う。
時間と注意も、自分にとって大切なものに使う。
自分の人生において
他人と比較する物差しではなく、自分の物差しを持つ。
社会の評価基準で自分の人生を測るのではなく、自分にとって何が大事かを、自分の中で確認する。
この3つのバランスを取りながら、競争社会の中で、自分の中心を保ち続ける。
これが、現代を生きる人間に求められる、新しい技術である。
WellGrowは、競争の中で、自分の真の豊かさを見つけ直す場
WellGrowが提供したいのは、競争を否定する場ではない。
競争に勝つためのツールでもない。
競争の中で、自分の真の豊かさを見つけ直す場である。
他人と比較するのではなく、自分の基準を作る
消費で満たすのではなく、自分の内側を満たす
注意を奪われるのではなく、自分で向ける
競争に勝つことだけではなく、よく生きることを選ぶ
毎日3分、自分と対話する時間を持つ。
その時間の中で、自分にとっての真の豊かさを、少しずつ見つけ直していく。
世界が競争を煽り、消費を煽り、不安を煽る中で、
自分の中に、静かな中心を作っていく。
そこから世界を眺められるようになれば、競争社会の中にいても、自分を見失わずにいられる。
むしろ、競争社会の中で、自分の真の豊かさを育てていくことができる。
WellGrowは、そのための毎日の練習場である。